先月に引き続き、先端映像協会「ルミエール・ジャパン・アワード2020 」からの注目作品を紹介しよう。山岡信貴氏(リタピクチャル代表 映画監督)の3D作品、「センチメンタル」だ、本アワードでは優秀作品賞を授与された。これまでの3D制作の常識とされていたことのことごとく反対を行くことで、これまで誰も到達しえなかった、3Dの新境地を獲得した稀有な作品だ。
私のインプレッションをまず記す。「3Dならではの歪みやノイズを作品性のひとつとして積極的に採り入れるアイデアは斬新だ。意図的に安全を無視することで、臨場感への突き抜けた表現力を獲得した。視覚だけでなく、聴覚も加わり、ハプティクスのような皮膚感覚もあった。虐待シーンでは3Dを歪ませ、最後の病院シーンではそれが正常になり、また次のシーンで極端な3D歪みが出るという3Dのプラスとマイナスの性能を巧みに活かしている。3D表現をストーリーテリングに使った見事な作品だ」。
これまで映画業界は3D特有の不安定感(不自然な視覚、目の疲労、歪み感など)をいかに除去し、安心・安全な3D映像にしようと努めてきた。ところが「センチメンタル」は真逆である。従来、問題とされた3Dの不安定さを積極的に採り入れたのだ。なぜか?を解く前に、私が山岡作品に注目したのは、実はこれが2回目だという話をしよう。
2019年の「ルミエール・ジャパン・アワード 」審査会で、山岡監督の3D映画『縄文にハマる人々』を見て、その場にいた全員が、感嘆した。退潮といわれる3Dでも、ここまで徹底的にこだわった作品を作るひとがいたこと、作品性が素晴らしいことに、私を含め審査員はみな、大興奮していた。「久しぶりに凄い3Dをみた」とみな、異口同音に言っていた。
地方によって個性が豊かな奇妙な造形物を生んだ縄文時代とは何なのか、なぜ人々はそれに引かれるのか。謎多き縄文時代と縄文文化にはまった人を5年間、3Dカメラで追った作品だ。考古学者、民俗学者、文化人、アーティスト、縄文マニアまで徹底的にインタビュー。大画面3Dで見る縄文土器は奥行きとでっぱりが豊穣で、大迫力だった。
そのイメージがあって、翌年に「センチメンタル」を見たから、そのあまりの違いにびっくりしたのである。違いというのは、ひとつはもの凄くダークなストーリー。幼児を殺害しミイラにするという猟奇殺人がテーマ。殺された幼児の父親が、成長した犯人の娘を金属製の箱の中に閉じ込め、過酷な尋問をすると、思いも付かない殺人の動機が分かる。明るく、とことん追究する縄文文化3Dとはまるで違うダークな雰囲気だ。山岡監督にインタビューした。