センチメンタル

センチメンタル

Trailer

Introduction

3.11を経て大きく変わるかと思われたこの国も、10年を経てみれば目が覚めるような変化はなく、そして迎えたパンデミックにおいても自分こそが正義だと信じて疑わず罵り合う様が繰り広げられた。一体、人間にとって正義とは何なのか?主張の違うお互いがわかり合うことは永遠に訪れないファンタジーなのか?

幼児を殺害しミイラにするという猟奇殺人をテーマに、異常なストーリー展開で罪と罰の根元を問う映画がこの『センチメンタル』だ。

そして、この物語に不可欠な要素として導入された3Dという映像表現。単なる流行だと扱われがちな3D映画の新たな可能性を『縄文にハマる人々』で開花させ、先進映像協会ルミエールジャパンアワード優秀作品賞を受賞した山岡信貴監督が3Dのさらなるポテンシャルを引き出した最新作でもある。

古今の3Dを再度検証し直し、必然性をもった3D表現を追求した結果、これまでハリウッド映画で使われていた手法の多くが効果的ではないという結論を得て、ストーリーと表現を緻密に連携させた映画が誕生した。

それは3Dの最終結論か、新たな表現の幕開けか。

映画評

FILM CRITIQUES

3D制作の常識を覆し特有の歪みやノイズを取り入れ新境地を獲得

麻倉怜士(オーディオ・ビジュアル評論家)

 先月に引き続き、先端映像協会「ルミエール・ジャパン・アワード2020 」からの注目作品を紹介しよう。山岡信貴氏(リタピクチャル代表 映画監督)の3D作品、「センチメンタル」だ、本アワードでは優秀作品賞を授与された。これまでの3D制作の常識とされていたことのことごとく反対を行くことで、これまで誰も到達しえなかった、3Dの新境地を獲得した稀有な作品だ。

 私のインプレッションをまず記す。「3Dならではの歪みやノイズを作品性のひとつとして積極的に採り入れるアイデアは斬新だ。意図的に安全を無視することで、臨場感への突き抜けた表現力を獲得した。視覚だけでなく、聴覚も加わり、ハプティクスのような皮膚感覚もあった。虐待シーンでは3Dを歪ませ、最後の病院シーンではそれが正常になり、また次のシーンで極端な3D歪みが出るという3Dのプラスとマイナスの性能を巧みに活かしている。3D表現をストーリーテリングに使った見事な作品だ」。

 これまで映画業界は3D特有の不安定感(不自然な視覚、目の疲労、歪み感など)をいかに除去し、安心・安全な3D映像にしようと努めてきた。ところが「センチメンタル」は真逆である。従来、問題とされた3Dの不安定さを積極的に採り入れたのだ。なぜか?を解く前に、私が山岡作品に注目したのは、実はこれが2回目だという話をしよう。

 2019年の「ルミエール・ジャパン・アワード 」審査会で、山岡監督の3D映画『縄文にハマる人々』を見て、その場にいた全員が、感嘆した。退潮といわれる3Dでも、ここまで徹底的にこだわった作品を作るひとがいたこと、作品性が素晴らしいことに、私を含め審査員はみな、大興奮していた。「久しぶりに凄い3Dをみた」とみな、異口同音に言っていた。

 地方によって個性が豊かな奇妙な造形物を生んだ縄文時代とは何なのか、なぜ人々はそれに引かれるのか。謎多き縄文時代と縄文文化にはまった人を5年間、3Dカメラで追った作品だ。考古学者、民俗学者、文化人、アーティスト、縄文マニアまで徹底的にインタビュー。大画面3Dで見る縄文土器は奥行きとでっぱりが豊穣で、大迫力だった。

 そのイメージがあって、翌年に「センチメンタル」を見たから、そのあまりの違いにびっくりしたのである。違いというのは、ひとつはもの凄くダークなストーリー。幼児を殺害しミイラにするという猟奇殺人がテーマ。殺された幼児の父親が、成長した犯人の娘を金属製の箱の中に閉じ込め、過酷な尋問をすると、思いも付かない殺人の動機が分かる。明るく、とことん追究する縄文文化3Dとはまるで違うダークな雰囲気だ。山岡監督にインタビューした。

「『縄文にハマる人々』を見た人からは、こんなこと考える人間だとは思わなかったわ〜と唖然とされるかもしれません。縄文では人間の可能性に対する希望も描きましたが、『センチメンタル』はそれとはかなり違うテイストです。圧迫感のある内容になった理由は、長編の3D映画がなぜ、だめになったのかを真剣に考えた結論なのです」。
2010年頃の3Dブームだった時、ハリウッド製の3D映画が多数紹介された。例えば、ジェームス・キャメロン監督の「タイタニック」などが人気を得ていた。

「ハリウッドの3D映画では3Dが効果的に使われていないのです。原因は、①2Dを3D変換している作品がほとんどなので、3D向けのアングルや画角ではない、②カット割が細かすぎ、3Dを意識した構成になっていない。③スペクタクルな大スケールのショットが多く、3Dの効果が上がらない—でした。でもいつまで経っても改善されない。だから3Dが飽きられ、作品が作られなくなったんですよ」。

つまり3D作品なのに、3D用に最適化されていないことが、衰退の原因だと喝破。逆に言うと、3Dならではの作品性に徹すれば、それを突破する新しい方向も見えるのではないか。そこで、古今の3D作品を勉強し直し、これまでとはまったく逆の、3D歪みを退治するのではなく、それを作品に活かす……という、驚天動地の発想に至ったのである。

「3Dのひとつの本質は、”3Dメガネの束縛感”です。それから逃れられないのなら、そこから、映画を発想したらどうか。箱の中に閉じ込められ、覗き窓から外をみるしかないという設定にして、映画の行き詰まる雰囲気がエンディングに向かって昇華し、ついには観終わって3Dメガネを外した時に観客は無上の解放感を感じる……という構成にしました。技術と内容が互いを活かすのです」。

「歪み」こそ、作品性とし、3Dであることから逆算し、すべてのストーリー、構成を組み立てた。それは ①3Dメガネを掛けること自体の肉体的拘束感を「閉塞空間」という設定にシンクロさせる。②歪み表現により、日常とは違う別の現実感を醸成、③3Dは”面”や”境界”が強調されるので、演技では”触る”行為を多用し、臨場感につなげる、④量感を感じさせるために、カットは長く、⑤箱庭効果も積極的に利用し、「人間の所業」を神の目から見ているような印象を与える—だ。 つまり3Dの教科書で、これはしてはならないことのオンパレード。それ表現に使い、ストーリーへの体感的没入を演出した。現実を3Dとしてコピーするのではなく、映画の中だけの3D空間を作る。。歪みこそ、3Dの本質だとする逆転の発想が、作品性と視手の身体性が「閉塞」をキーワードにシンクロするというワン・アンド・オンリーの大傑作3Dを生んだのである。優秀作品賞も当然である。

VIDEO SALON 2021年3月号 より

Story

まだ5歳になったばかりのマリという少女が殺害され、ミイラとなって発見された。
犯人の考古学者である雨宮啓子の行方は知れず、犯行を手伝った啓子の一人娘が逮捕されるも未成年で精神状態が普通でないことから罪に問われることはなかった。

それから7年経ったある日、成長した啓子の娘は金属製の箱の中に閉じ込められて、箱の外にはマリの父親を名乗る男が立っていた。
男の過酷な尋問を受け、想像を超えた殺人の動機が明らかにされる。

Director

山岡 信貴

1993年に初長編映画『PICKLED PUNK』を監督。ベルリン国際映画祭ほか多数の映画祭に招待上映される。以後も実験的なスタイルを貫きながら定期的に作品を発表し続けつつ、携帯電話キャリアと共に視覚の心理状態への影響の研究やデバイス開発等、サイエンスの分野にも積極的に取り組んでいる。
2013年にはロサンゼルスのIndependent film makers showcaseにて全長編作品のレトロスペクティブが開催された。
近年は『縄文にハマる人々』『トゥレップ 「海獣の子供を探して」』などドキュメンタリー作品も多く『縄文にハマる人々』と本作『センチメンタル』では先進映像協会ルミエールジャパンアワード優秀作品賞を受賞している。

主な長編監督作品
  • 『PICKLED PUNK』(1993年) ベルリン国際映画祭他正式招待作品
  • 『Zeki, Florian and Kelly!』(1997年) マドリッド国際映画祭他正式招待作品
  • 『PIG‘S INFERNO』(2000年) リオデジャネイロ国際映画祭他正式招待作品
  • 『ソラノ』(2005年) シンガポール国際映画祭他正式招待作品
  • 『天然性侵略と模造愛』(2005年) プサン国際映画祭他正式招待作品
  • 『死なない子供、荒川修作』(2010年) ハンブルグジャパンフェス招待作品
  • 『アートなんかいらない!』(2022年)瀬戸内国際芸術祭正式上映作品

Cast

川島 充顕

同志社大学在籍時より演劇を始め、新宿梁山泊に入団。その後、映画出演を開始し、山岡監督と多数のコラボレーションを重ねる。
現実ではあり得ないシチュエーションにリアリティーと熱量を与える演技には定評がある。

主な出演作『PICKLED PUNK』『Zeki,Florin and Kelly!』『Pig’s inferno』『天然性侵略と模造愛』『遊星メガドルチェ』

PICO

3歳からピアノ始め、幼少から音楽に親しむ。

大学時代にバンド活動を始め、ギター、キーボード、ボーカル、コーラスを担当。
その後、SouthAfrican&Australian choir に加入、Martin Meader 氏に師事し、主に西海岸のパースで活動する。

2014年 Photobook&シングル『Pico album』をリリース。
2020年 アイリッシュフルート奏者安井マリ率いるユニットLady Linsulに参加し、『Songs of the wind』をリリース。

その他コーラスサポートや保育園・シニアレジデンスでの出張コンサート等、音楽の楽しさ・歌うことの素晴らしさを広めている。

劇場情報

5/6(月)〜5/11(土)

東京

映画『センチメンタル』プレミア上映会
会場: 京橋  アートスペースキムラASK?P

映画『センチメンタル』
2020年度作品、日本映画
ビスタサイズ HD カラー 3D ドルビーデジタル 上映時間 72分
製作 有限会社リタピクチャル
お問合せ:3d@senti-movie.com

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